それでもあの方は区長ですから。




+親愛なる新区長に捧ぐ、五つの質問状とその回答+




      仕事が出来ない?

 そうですね、まだ区長の任を背負われたばかりですから不馴れな部分もあるでしょう。しかしそう繕う以上に、仕事はこなせていないかもしれません。


      ろくな職能力を持っていない?

 そうですね、確かに極めて使い道がわかりづらい能力だと私も思います。いかなる経緯で会得された能力なのかは私にもわかりません。ですがご本人は至極ご満悦の様子なので問題はないのではないでしょうか。


      余計なことばかり思いつく?

 そうですね、でもせめてアイディアが豊富だという表現に留めて差し上げてください。それにああ見えて意外と結構思慮深いと言えなくもないのです。今回の選考方法に関しても、何か深い御考えがあってのことだと私は考えております。


      すぐサボろうとする?

 そうですね、それは私も常々頭を悩ませる要員ですが。それでも、……フォローを入れて差し上げられない程、隙あらば公務ですら遊びに変えてしまわれるような方ですから。最早あれは一種の才能と呼べる域ではないでしょうか。確かにもう少し、自らの仕事に責任を持っていただきたいと思わずにはいられませんが。
 ……ええ、自信と誇りは持っていらっしゃいますよ、それはもう過剰なくらいに。意気地がないよりは余程ましかとは思われますが、そちらに傾けている情熱を、どうしてもう少し事の後始末に回せないのかと思うことは多少ならずともございます。
 確かに、他にも挙げていけばきりがないほどに、どうしようもない方ですけれど。



 しかし、だから、何だというのです。
 あの方は区長で私はその秘書。それ以外に、どんな理由が必要だというのでしょう。
 言いたいことがある輩には、勝手に言わせておきなさい。それしきのことで揺らぐほど、私は柔な精神の持ち主ではありません。





 何があっても、私はついていくと決めたのです。
 あなたの、秘書となったあのときから。











 ...だから。
 何があっても揺るがないでください、あなただけは。